サハラを越すには冬の方が良いが、どうも渡りきる前に春になりそうな気配とタイミングであった。

湿気が少ないので、陰に入ったら気温が高くても過ごしやすいのですが、春に向かって益々暑くなってきて
できるだけ早く起きて、午前中だけ走って午後には休める木の下を探すことにする。
インサラに到着する前に、気温が急に上がり始め、熱風が吹き始める。
春の訪れである。
が、翌日からフワ〜っと風が吹くと、最早思考力と判断が出来なくなる位の命の危機感が感じられるようになった。
何処にも逃げられない、何処にも影が無い。気が狂いそうに熱風が吹くと苛立つ。

今まで経験した事の無い風が吹いてきた。
少し砂を伴った風は何だろうか急に命の危険を感じた。
丁度自転車を押すには、気温もかなり高くなり、木でも見つけたら夕方まで陰で夕方まで休もうと思いながら進むに
見つからない状態で、急にその風は吹き始めた。

瞬間、これは危ないと思ったが、見渡して逃げ込む事出来ないと思うと同時に、自転車にテントをかけて陰を作ろうと
とっさに積んであるテントのヒモを解き始める頃いから、思考力と動作が鈍り始める。頭が沸くというより、心が沸く
という表現が適しているかも。
何しか考えられない不安と共に、テントのペグを刺さりもしない砂に打ち付け、風にあおられてバタつかせ、成す術もなく
ただ、同じ動作を繰り返す。
我に返って、自転車にフライシートを掛け、その隙間に入り込んでしのぐ。裏側銀色のテント地を上にして光の反射で少しは
涼しいのだろう。砂が暑いので、木の下の陰の砂のようには涼しくないが、風をしのいだだけでも冷静さを保つ事が出来た。

人間が生きれるのは、寒い地域では生活が出来るが、暑さの中では限界は低いと思える体験でした。
併せて文化が生まれ難いのかもしれない


インサラに無事着いた。
少なくとも本当の砂漠はここまでで、一安心かな。

砂の中に取り残された旅人の車の残骸も、その車種の名前は、ケニヤのナイロビで聞いていたが、その車を確認出来た。
ほんとにこの世界は狭いものだ。

インサラからはもう北にアスファルト道路ができていた。
だからといって本当の安心はないようだ。

インサラに着く前から急に春となって、夏となる。砂嵐の風は前方が見えない程に吹き荒れる。
アスファルトの道といっても、砂漠の中にただ1本作られただけのもので、砂漠の中を走っていることは同じ。
道すがらに民家があるわけでもない。
道路の表面を砂が風にあおられて文様のようにぐねり、流れて行く。
朝テントから顔を出すと、アスファルトの道上に大きな砂山が出来ていて、道が飲み込まれていた。
山が移動しているようだ。